野上日記
蝉の受難
こんにちは、Y館長です。
仁川学院藤飯治平記念館は、藤飯治平先生が自宅・アトリエとして居住されていた住宅をそのまま利用しています。
もちろん内部は記念館として体裁を調えるため最小限の改装は行いましたが、アトリエ等は可能な限り藤飯治平先生が使われていた当時の雰囲気を損なわないように手を入れました。
門扉から記念館玄関まで、10メートルほどの石畳のアプローチがあります。その両横は植え込みとなっているのですが、オープン早々にその土の地面に点々と直径2センチほどの穴が開いてることに気が付きました。
なおよく観てみますと、茶色く干からびた蝉の抜け殻が、これも地面に点在しています。
あれっ?蝉は土の地面で脱皮をするのかと、訝しく思いつつハタとあることに思い当たりました。
それは、藤飯治平邸を仁川学院が引き継いだのが昨年のこと。藤飯治平先生がお亡くなりになられてからの七年間、この庭は自然のままに置かれていて、仁川学院が引き継いだ時点では、些か鬱蒼とした森状態であったのです。
夏にはさぞかし蝉たちの憩いの場所であったろうと想像されるのですが、そこに昨年、植木屋さんの手が入り、鬱蒼と茂る木々は剪定され、現在の明るい開放的な庭園に生まれ変わりました。
ご存知のとおり、蝉はその幼虫時代を産卵した木々の周りの地中で過ごします。短い蝉で三年、長い蝉ですと十年近くも地中で暮らすらしいのですが、さて、今夏・・・その地中での年季が明けて、勇躍脱皮のために地上に出てみると・・・あに図らんや登って羽化するための木々の幹がありません!
藤飯治平記念館として庭園を整備することが、地中の蝉たちにはこれ以上ない「環境破壊」であったというわけで、昆虫界のみならず人間界においても似たような話があったりするわけですが、何にしましてもこういう場合、被害者側にはなんの責任もないことで・・・・
幹を見つけられなかった蝉たちは、仕方なく、蟻や蜂の外敵に慄きながらも地面での脱皮に挑んだのでしょう、そんな彼らの跡を眺めて、少しほっとするのは、成虫の死骸がまったく見当たらないこと・・・
兎にも角にも「受難」ともいうべき困難な状況下で順調に羽化を終え、残り少ない生を全うできる環境を求めて旅立った蝉たちに拍手を・・・
けれども、これからの数年、藤飯治平記念館の夏の庭先で、同じ事が繰り返されるわけでしょうね、地下の幼虫にはいっそう逞しく育って欲しいものです・・・
というわけで、そんな蝉たちのささやかな物語を確かめるためにも、ぜひご来館くださいますようお願いします。